気になることはこれ その1
母の愛は、現代においても最も神聖なものの一つに数えられています。
日本人のほとんどすべての人の遠い記憶に、母親の愛を一身に受けて育った幼い日が甘く刻みつけられています。
母と子の一体感は強く、母は子のためにはあらゆる自己犠牲もいとわないとされています。
「人の親の心は闇にあらねども子を思う道に迷いぬるかな」(『拾遺集』藤原兼輔)という古歌そのままに、子供への愛のためには命も惜しまなかったエピソードが、文学でも歴史でも数多く伝えられています。
源氏物語の主テーマは主人公光源氏の亡き母、桐壺更衣の面影をとどめる女性たちとの恋が中心であり、その影響は近代になって谷崎潤一郎、川端康成などにも及んでいます。
江藤淳氏が『母ーー成熟と喪失』と題した評論で綿密な論証をしているように、日本文学の中で母の占める位置は大きいようです。